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ずいひつ しほんたいへいき
随筆 私本太平記
吉川 英治
Read 随筆 私本太平記 (ずいひつ しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,947 characters · 114 screens
その二十三
と、いっておられた。私も正月以降、さらに人間正成をなお書いてゆくつもりでいるが、ただ湊川にいたるまでの楠木関係といっては、ほとんど、史料皆無なのが、どうもなかなか苦労で目下呻吟中の状である。
これまでやったこともない腎臓と胆嚢障害にかかって、暮のうちはちと悩んだ。十一月からのムリがたたったのだと医師はいう。そうかもしれない。正月は六、七日川奈で休養ときめている。
読者諸子も御多祝に。
今が、太平記のような非太平時代でないだけでも、お互い、多祝多祝、とすべきではあるまいか。(三六・一・一)
その二十三
梅便りがチラチラ目につく。
地球の外へ出た科学物体がまだ金星へ飛翔中である。東京は今年まだ雪らしい雪を見ない。日曜は医者がいなくなる。ヴイルスとテロ論議と異常乾燥の度と株だけがむやみに高い。毎日の社会面記事の悪世相にはもう誰も驚かない。いちいち驚いてなんかいられないといった誰もの顔つき。総評の春闘と並んで、親鸞上人の七百年忌もほど近い。そして、流行りカゼと、有難や節……。
へんな日本である。コンゴよりはすこしはましな気もするが、いったい日本よ何処へ行く、と思われぬことでもない。