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ずいひつ しほんたいへいき
随筆 私本太平記
吉川 英治
Read 随筆 私本太平記 (ずいひつ しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,947 characters · 114 screens
その六
だから尊氏が中原へ出た軍需や足がかりの地は、三河だった。
そんなわけで、ここにもまた一挿話がある。義士討入りの当日、不忍ノ池の足利邸から松坂町の吉良邸へ、ある問題で、お礼の使者が行っていた。――その使者が大雪の中を帰って来た夜に、あの事件だった、という。
それ以前から、上野介は、本家の足利家が、あまりに微禄なのを見かねて、足利家の転封を、時の幕府に内々運動中であった。そしてほぼ成功の緒についたところを、彼の横死で一切は闇に葬られてしまった――という語り継ぎが、足利家にはあるそうだ。――こう観てくると、過去をただ時の流れといってしまうには、余りに人と歴史の綾は目に見えぬ密度の糸で縢られている。
さて。かんじんな河内紀行だが、もう枚数がない。またの機会に書くとする。ただ同日、小雨の中を、観心寺、赤坂、水分、楠木氏夫人の遺蹟など、多大な労をとって下すった郷土の諸氏に、厚くお礼だけをのべておく。(三三・六・二)
その六
近々のうちに、「あしかが帖」を一トまず閉じて、次に楠木正成を中心とする「菊水帖」へ筆をすすめる予定である。
先月、つい書きもらしたが、五月下旬の私たち一行の“河内紀行”は、私にそんな腹案があったのと、ちょうど東北大の豊田武教授とも同行の約が出来たので、大阪滞在中の寸暇、あいにくな小雨を見つつも、むりに