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ずいひつ しほんたいへいき
随筆 私本太平記
吉川 英治
Read 随筆 私本太平記 (ずいひつ しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,947 characters · 114 screens
以前、私は夏中よくここの緑蔭に来ては、何かと博士の教示にあずかったものである。その頃か。兼好法師の消息の上包みを、文庫の屋根裏から発見したと、狂喜されたことなどあった。生涯を文庫の再建と、鎌倉文献の研究にささげて来た先生も、齢すでに八十。とつぜんなのに、すぐ御自宅から杖にすがって文庫へ見えられ、そして私のために、たちまち書目を漁って、太平記関係のものを示されるやら、旧懐談やら、おはなしは尽きない。
太平記を見直すためには、金沢文庫はその宝庫のようなものである。惜しいが、再訪を約して、文庫長の熊沢氏とも、行きずりのままお別れする。
朝比奈山にかかると、同行のY君が「ここの峠は、今ちゃん(日出海氏)が銀座から深夜帰る途中、きっと車から降りて小便する所です」と名所案内みたいなことをいう。そこで、小生も車を降りてどんなものかとこころみる。六浦一望、なるほど、彼は風流児である。
鎌倉では、杉本寺にのぼり、東慶寺では偶然、ささき・ふさ女史の苔碑に会う。近くに真杉静枝女史も眠っている。真杉さんのお墓には、誰が供えたのか、ガラスびんの酒徳利に、お酒が上げてあった。