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ずいひつ しほんたいへいき
随筆 私本太平記
吉川 英治
Read 随筆 私本太平記 (ずいひつ しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,947 characters · 114 screens
ここで私が、氏の無断紹介をするなどは、おそらく同氏にとっては御迷惑なことだろう。けれど六百年後の今日、私本太平記の筆者が末孫たる君に巡り会うなどという奇縁からして、そもそも、祖先尊氏の引き合わせかもわからない。と思って、観念していただくことにする。
お名前も、足利惇氏さんである。京大では梵文学(東大でいう印度哲学科)の教授、学習院時代には、いまの陛下と同級であったという。だからお年は訊かないでもすむ。五十七。
東京の家庭は、有馬邸の内で、作家の有馬頼義氏は義弟に当る由である。だが、細川さんとはどういう御縁か。私も訊いたが、人にもよく訊かれるらしい。「だって昔は家来筋だものナ」。そう答えたッておかしくない。だが、惇氏氏は、笑ってこういう。「細川さんへは、貸しがあるんですよ。貸しといっちゃあ、まずいかナ。まア、そんな関係がね」。
そこをみんなで根ホリ葉ホリし始める。由来は、こうであった。
幕末ごろ、熊本の細川藩から、当時十五、六歳の細川護美氏というおん曹司が、野州喜連川の足利家へ養子に入った。
ここで私の調べたところを少々加えると。
足利将軍家の正嫡は、室町幕府の滅亡後、各地を転々とし、天正十八年、徳川家康の擁護で、やっと下野塩谷郡の喜連川に一万石の封土を得て落着いた。