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ずいひつ しほんたいへいき

随筆 私本太平記

吉川 英治

Read 随筆 私本太平記 (ずいひつ しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,947 characters · 114 screens

Aozora Bunko

そのほか、同時代の日記物、文書、古記録のたぐいは、古くから現代の歴史家までが、あまねく漁りつくしているので、新発見というような史料は、おそらく今日ではもうありえない。求めてもむりである。

けれどまた、私の拙い作品でも、これが新聞小説となって、世衆の関心にふれてくると、社寺院の開かずの扉や郷土の暗黒倉などから、何が出てくるかわからない。現に、きのうも電話で、私にかくれた南北朝史料を提供したいからという人があり、いままた、この随筆を書いているとき、階下の玄関へ、同様な意味をいって面会を求めきた訪客があるが、礼をつくしてお断りした。この後も、そういう御好意には謝するが、会ったり御返事を書いたりは一切しないつもりである。というよりも、じっさいの小説へ毎日の執筆をつづけ出すと、とても私には時間がない。私の「私本太平記」への目標や文芸構成のことは、べつな“作者のことば”でつくしてある。

さきに私は「新・平家物語」を書いたが、「太平記」は、それにくらべると、おなじ古典でも、時代が下がるし、人の考え方や世の中も一変している。平家には見えたあの優雅な人々の無常観も“あわれ”さもまた文章の詩趣も至って乏しい。