Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
などと面白がっていただけにすぎなかった。
けれど福引がなくなると、がたんと客足は減り、たまに客が入って来ても、母はお愛想を云うのさえ顔を紅らめてしまう風だし、ぼくらは奥へ逃げ込んで女中を呼びたてる始末なので、何とも妙な事であった。けれど日がたつにつれ、いつか皆、店番にも馴れ、元より利益も何もあったわけのものではなかろうが、みどり屋の暖簾だけは、朝な朝な、わが家の軒に懸けられた。
以前からの習慣で、斜向いにあった俥宿のカゴ虎の若い衆は、毎朝、ぼくの家がまだ戸を開けない前に、家の前の往来から小橋の上をきれいに掃いて、打水までしておくのだった。で開店後も、店が開いたと見ると、暖簾はそこの若い衆が来て懸けてくれる。
ある朝、父の出勤間際、父はカゴ虎の俥に乗りかけながら、頻りに、軒の紺暖簾をながめていた。それは自分の字を染めたものである。暖簾の一片一片に、み、ど、り、屋、雑、貨、店、と一字ずつ区切って大きく書いてある。その晩、帰って来ると、父はさっそくぼくの義兄に墨を磨らせ、太筆を持って何枚となくその七文字を書き直していた。そして急に、暖簾の染め更えを母に命じた。