Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

「梅暦」読み初めし頃

オテイちゃんと並んで伊勢佐木町を歩いても、たれも女とのみ思って怪しむ者がなかったといって、義兄は自慢そうに話すのだった。こんな風に女に好かれた兄だし、酔えば芸事の限りをやって見せるので、父が大酔して癇癖を発するとなると、忽ち日頃の気にくわないものが出て「大体、貴さまは柔弱でいかん」となり「それでも男子か」と辱めたり、腹を切れなどという暴言にもなるのであった。

ところが、この兄も、そんなやさ男のくせに、じつはなかなか剛情な人だった。長年、実父を離れて育ってきた叛骨も内にもっていたのである。だからよくお談義をくうと「ぼくは独立します」と云っていたものだが、ついに父と大喧嘩してまもなく家を出てしまった。そして、元町辺のある相場師の二階に間借し、そこから左右田銀行に通っていたが、いつのまにかそこの娘のお八重と恋愛におち、お八重は義兄の子を宿していた。

「梅暦」読み初めし頃

まもなく、ぼくには嫂というものができた。

義兄が結婚したのである。

いきさつは、後での事にするが、とにかく自分たち家族の中に、若いきれいな嫂が忽然と生活に加わったことは、やや何かが分りかけつつあった十一、二歳のぼくという弟にとっては、内々、小さくない動揺であった。