Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
父帰る
母はぼくの泣きじゃくりを撫でて「さ、もういいの……。もうお父さんもお帰りになったし、みんなで仲よくさえ暮せばって、今もお父さんと話しあっていたところなのよ。ね、英ちゃんもその気になってよ」と、繰り返して云い「夜業だったの、お腹が減ったでしょ」と、父のそばへ行って、寝衣になるのを手伝い、父が横になると、台所へ立って行った。
ぼくは、自分の顔が乾くと、やや落着いて、父の寝顔を見ることができた。父は暗い方へ横向きに寝た。枕元から額ごしに見ると、父の顔の痩せが、ランプの下になお濃い陰影をもって見えた。何か、息ぐるしいまで、自分で自分を拘束しているぼく自身の気もちを放つために、ぼくも母のあとを追ってすぐ台所へ行ってしまった。そして、母がそわそわ膳支度をしているのに、それを待ちきれないでそこらのお菜を見つけ次第ツマんで喰べた。
父帰る
父は変り果てた姿で、そして留守のまに、もっと変り果てていた妻子の小さな借家住居へ、その晩、半年ぶりで帰って来たものの、当座、こうどことなく以前の父とは、ひどく人が違ってしまったように思われてならなかった。
おそらく刑務所での囚人生活が、長年、大酒と遊蕩に馴れていた父には、人いちばい、こたえたものであったろう。