Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
はにかみやら周囲の眼に怖れて、ほんとの想いとは逆に、まったくべつな形で振舞っていたものらしい。少なくもぼくの母を初め女中たちまでが、そんなふうにオテイちゃんの胸を見すかしていたように思う。
ひと頃、やはり近藤夫人の姪で、竹子という娘なども、義兄を繞って、オテイちゃんとの恋争いの図を見せていた。竹子という女性は、いつもこってりと、見るからに濃艶な粧りをしていた。オテイちゃんの蔭口では、彼女は賑座の市川市孝という俳優が好きで、贈り物をしたり、楽屋見舞に行ったり、たいへんな熱の上げ方だなどという事だった。そんな噂もウソとは聞かれないような娘であり、近所でもいい評判はしていなかった。
それにしても、義兄の政広の姿が、ぼくには嫉ましくみえていた。また、義兄自身もその頃は、何となく浮わついていた。自分の美貌にうぬぼれていた風がないではない。ある一夜などは女装してオテイちゃんと一しょにどこかへ遊びに出て行った。まだ寒い二月頃だったので、その頃流行っていたお高祖頭巾を被り、白粉をつけ、女の着物、女下駄で出てゆくのを、母も女中も笑い囃しながら見ていたが、やがて何時間もたってから澄まして帰って来た。