Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
なぜ家で読まないかといえば、義兄に見られても母に見つかっても、叱られるに極っている本だったからである。自転車お玉、岩見武勇伝、稲妻小僧、田宮坊太郎、鬼神のお松、何でも棚にある物は無差別に読んで行った。いわゆる大阪版という講談本だ。厚ぼったいが、読みではなく、一時間か一時間半で一冊は読めてしまう。半年もたつと、もう小使さんの家の棚には、ぼくの読む物はなくなってしまった。
ぼくのこんな悪書の濫読は、家では誰も知らず仕舞いだった。これがどんな悪影響をぼくにもったかは、いうまでもない。もし、両親か義兄でも知ったらきっとその害に戦慄したことだろう。それほどひどい物だったし、家庭人の児童にたいする読書の監視は、やかましかった。それなのにぼくは、人知らぬまに読んでいた。
貸本屋を卒業すると、まもなく縁日の露店の古本屋で、涙香の翻訳物や押川春浪の冒険物などを漁り出し、それが昂じて、すぐ帝国文庫へ手をつけ出した。何しろその頃の旺盛な読書欲は、蚕が桑を食うような早さであった。本を買うのに、小遣いが間にあわないのである。帝国文庫に眼をつけ出したのは、何しろあの五、六百ページもある厚さが魅力だったのだ。