Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

すると、その背中から「英っ」と、父の呼ぶ声がした。小さくなって、父の前へ戻った。父は坐り直していた。父の顔や手にスリ傷があった。母にはもう何もかも分っていたのだろうか、そばで泣いていた。母の泣く姿も、今ではすでに母の仕癖のように、右の袖口を、左の指先につつみ、掩っているのである。

幾日も、酒へ酒をあびていたような匂いが父のからだから発散する。「――おまえはな」と、父は云った。息切れが聞えるのである。「……英。おまえはな、長男だ。お父さんは、訴訟に負けたよ。もう、おまえばかりでなく、こんな大きな家にはいられない。おまえは長男だから一番先に働きにゆけ。いいか」と、何度にも、息をやすめては云った。

ぼくは「はい」と、答えた。と答えるしかないし、まだよく父のいう意味が分らなかったのでもある。だから、父のことばが終ると、また草履袋を持って、すぐ学校へ行こうとした。

すると父は、立ちかけるぼくを見て「まだ分らないのかっ」と、こんどは、いつも悪酒になると出る大声でどなった。そして「もう、学校へ行かなくともいい。学校を退いて、おまえから先に働きに出るんだ。わかるだろう、お父さんの云っていることは」