Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

現代の家庭ではそんな丹念な暇つぶしをしている家は見かけないが、その頃の主婦はよくやったものらしい。うこんの布を畳んで持ち、毎朝、桐の家具を精かぎり撫で廻すという仕事であった。これがなかなかおかみさんの気に入るようには出来ないし、少年の根気には耐えられない、つまらなさでもあった。

来てから幾日目かに、ぼくは初めて戸外へ使いに出された。生まれて初めて土を踏んだような心地がした。同時に、前垂れ角帯の自分の小僧姿がまだ自分のものと思えず、人中では極りが悪くて仕方がなかった。通学へ急ぐ同年輩の中学生や女学生の姿を往来中に見ると、故なく体じゅうから瞼まで熱くなった。羨望と卑下とに小さい身なりを一そう小さくして街路樹の蔭々と拾って歩いた。家にいた頃はべつに身に沁みて考えられもしなかった学問への意欲が急に飢渇を知った胃のごとく疼いて来、その学問の出来る境遇から落伍したと感じることが、口惜しくもあり恥かしくもあって、何とも複雑な少年期の感傷にくるまれて来るのであった。

その朝のお使いは、港橋河岸の乾物屋からクサヤの干魚を買って来ることだった。何枚かのクサヤをくるんだ紙包みを片手に持ちつつそんな思いにふかふか歩いていたせいだろう、おかみさんは紙包みを開けてみるなり「あら、これだけ?」