Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
という広告だった。さっそく行って、翌日から通うように極めて帰った。朝七時就業、午後五時までで、日給十四銭、残業は一時間毎に二銭を支給するという事だった。ちょうどお米一升の値に近い日給のわけである。その晩、母にわけを話すと、母はじっとぼくを見ていたが、とつぜん、鼻腔も唇もふるわせて、咽び泣いた。それから、ぼくを抱きしめて又泣いた。多産であったし今年生れの子をもっていたので、母のふところはいつも垂れ乳でぐッしょりだった。で、ぼくも何だか赤ンぼの郷愁みたいな快感に濡れて、母と一しょに泣いてしまった事が今でも他愛ないものに思い出されて来るのである。まったく人生とは遠くを振返ると、たいがいは皆、他愛ないことにすぎないようだ。
南仲舎へはせっせと通った。初めは工場の解版部で、活字ケースを運んだり油ブラシで女工員たちと共に追い使われていたが、そのうちに罫線部の小僧に廻された。
南仲通りには、生糸取引所とか、米穀仲買商などが軒を並べていて、活版所はその喧騒の中にあった。だからここで印刷されるのは、相場の気配新聞や商事関係が殆どといってよい。罫線部というのは、よその印刷所にはないかもしれなかった。