Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

と、一枚の春画をぼくへ示したことがある。ぼくはそれまで、表彰された敏公というので、自分のような不良ではないと考え、内心、彼に畏敬を持っていたが、それを見せられたので安心したり又、親近感を持つようになった。だが、ぼくの方は臨時雇なので、間もなく「もう仕事もないから、明日からは来なくてもいいよ」と、あっさり解雇された。仕事に離れる事よりも、ヨイトマケの唄と別れる事の方が正直何となく淋しかった。

かねがね心がけていてくれた小島さん夫婦から「税務監督局の給仕さんに欠員の口があるが」と、母まで知らせてくれたのは八月か九月に入ってであったと思う。

が、その前に、ぼくとして書いてしまわなければならない事が残っている。

監督局の給仕になる前の一、二ヵ月を、ぼくは再び職探しにぶらぶらしていたものだろう。季節もお盆前後の事と覚えているから、その期間としてほぼ間違いはない。

或る夕方、母は蚊うなりのする台所に腰を下ろして、ぼんやり溜め息をついていた。途方に暮れた顔つきだった。母がそんな眸でいるのは何を意味するのかぼくにはすぐ分った。晩に食べる物が無いに極まっている。無いとなると上ゲ板の下の漬物樽に一個の茄子、一切れの菜漬さえ無くなってしまうのだ。