Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

ぼくは母を慰めるつもりで何かあても無い事を云って出たのかもしれないし、唯、黙って足を早め出したのかも分らない。とにかく、それから間もない後、ぼくは遠くもない郊外の真っ暗な傾斜地に立っていた。眼の下に大きな池があった。池のふちまでが馬鈴薯の段々畑でつづいている。星の光がすべて、神の眼か世間の人の眼のように見えた。罪を意識しながら犯行に出るまでには、恐ろしいたたかいが自分の中で動悸していた。

それだけに、過去の中でも、このときの事は、非常に強くあざやかである。池の向う側にある疎林の丘には、県立第一中の校舎が夜目にも見えた。自分が希望していてついに入れなかった学校である。その遠い白い壁が妙に気になった。そこの窓から以前の学友たちがこっちを見ているような恐怖なのだった。しかし、一瞬後のぼくは、馬鈴薯の葉に身を埋め、ほこほこする黒土を両手の爪で無我夢中で掘り起していた。続々と薯のころげ出てくる穴へ、さらに手を突ッこんで深く掻き捜した。畑の黒土は下へゆくほど、人肌みたいな温かさを持っていた。薯はすぐ一と風呂敷に余った。ぼくはそれを抱えると脱兎のごとく夜露の縁を切って逃げ出した。