Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
白い作業服の彼女は崇高にまで見えたが、薄汚れたメリンスの袂やらお太鼓結びの帯になった身なりは、やはりただの貧乏人の娘にすぎず、何となく興ざめたものだった。
ぼくは本間君という先輩の給仕と二人で階下の広い属官室の一隅にボロ椅子を与えられていた。本間君は専売局の女工という女工の半分くらいまでの名を知っていた。その中の一人と日曜日に本牧の海岸へ遊びに行った話もした。ぼくは羨ましげに聞きほじった。ここに長くいる間には自分にもそんな幸運が巡って来そうな気がした。「そのうち、君の好きな子に紹介してやるよ」と彼は云った。ぼくは息づまるほど本気な顔をして頷いた。
属官室の正面にある懸時計は、懶いチクタクを一日中繰返している。折々刻み煙草の煙管を叩く音や、ペン、算盤、咳払いなどが沈澱した空気をよけい重くしていた。どれもこれも猫背がちな姿には、和服に袴もあり、薄汚れた背広に固いカラーの人もいた。ハイカラという流行語が生きていた時代である。その中から「給仕っ」と、一種の調子をおびた声がかかる。命じられた書類などを持ってほかの室へ行く。水曜日には東京の本省から事務官の出張があり、事務官の室へも行った。