Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
事務官は若い瀟洒な金ブチ眼鏡の官吏さんであり、広い一室と立派な卓に構えていた。この人の卓へ、初めて書類やお茶を運んでゆく前に、ぼくは温厚な老守衛長から、お作法の予習をうけた。九谷焼の湯呑茶碗を茶托に乗せたのを目八分に捧げ、ドアの開け方、足の運び方、退歩の礼など、ずいぶんやかましい躾けであった。だから第一回のときには、手がふるえた。よほど偉い人と思われたのであった。
五時には退ける。朝も今までの何業よりも遅くていい。間にも、本など読めた。それに白衣の女神たちとも眸を交わせるし、ぼくは今までにない明るい足どりで通勤をつづけていた。けれど小島の小母さんは、すぐぼくに夜学をすすめ、あちこちの夜間中学校から規則書を取り寄せてくれたりした。
ところが、何があったのか、秋頃から小母さんはぱったりぼくの家に見えなくなった。母は何も語らない。けれど何かがあったに違いなかった。どうかした拍子には父の感情的な口吻が洩れるのだった。「女らしくない女は俺は嫌いだ」と云い「少しばかり世話になったからって、そうそう立ち入られて堪るものじゃない。英の方針だの勉強だのと、そんな事は、親として百も承知だ。