Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
。そんな悪たれをいう病人なのだ。ぼくは、その一語を耳に挟むと、その日に「廃めます」と、父へ云った。「廃めて、勤め口があるのか」と、父が気色を更えた。ぼくは反抗する為の反抗語をさがして父の色をなお突いた。「ええ、有っても無くても、廃めたらいいんでしょう。どうせ七円ばかしの給料なんか、家の足しにもならないんでしょうから」。すると父は「貴さま、いつそんな口をきくようになった」と、頭から一喝した。負けずに、ぼくも口ごたえした。激すと、父は忽ち顔を朱にして烈しい咳に咽んだ。持病の胃潰瘍のほか、この頃から、父には執拗な喘息が併発していた。咳き込むと、数時間は、母に背を撫でさせて苦しむのである。だから母は、ぼくが父へ反抗を示すと、台所にいても何処にいても、すぐ駈けこんで来てぼくの方を叱った。ぼくは母に叱られるのは何ともなく、母に負けるのも口惜しくはなかった。けれど「謝れっ」と言い猛る父には、嘘にも手をつかえて謝れなかった。
それも結局は、母の為に自分をまげて、「すみません……」と、手をつかえるほか無かったのだが、どっと涙があふれ出てとまらなかった。ぼくは何度も、自分の母の兄弟から二人の発狂者が出ていることを思い出して、ふと慄然となる事があった。