Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
わが家のすぐ裏は鳥料理の「金田」の庭だし、また大江橋の南詰には、当時すでに代は変っていたろうが有名な富貴楼の名残りもあった。だから昼は爪弾きの音が流れ、夕めくと、店の前を芸妓の木履の鈴が通り、金春の姐さんなどが、湯上がりの上ゲ鬢を涼やかに見せて行くなど、濃厚な脂粉の気も漂うのだが、それが堅々しい商店やそこらの家庭とも道路の裏表で交錯しながら、新古、何の不調和もなく町の色を組み立てていたのであった。
日進堂は東京の弘報堂の下請けで、新聞広告取次が本業だが、店の一部に化粧品の陳列棚を据え、美容水本舗の看板をかけていた。その頃、美顔水とかキレイ水とかいう物が流行的に売れ出していたので、それの類似品を製販していたのでもあろうか。棚は卸し売りの見本にあるのだが、近所の芸妓たちはよくそれを分けてくれといって来る。ほかに客が居ないと店員たちは、からかい半分、妓たちと好きな話に耽って、美容水をお線香代の代りにタダやったりしていた。ぼくは帳場格子の中で、いつも好きな書物にかじりついているか、その頃から妙に日本画のまねや水彩画などをぬたくっていたが、店に近所の妓たちが這入ってくると、じつは五官をその方にあつめ、うわべは素知らぬ風を装っているのであった。