Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
この人に声をかけられると、ぼくは勇気づけられた。伝法な口調で、通勤にはツメ襟の堅い身なりをしていたがいなせな肌合いの人だった。酒とばくちが好きで、給料日から二、三日は必ず欠勤し、細君が見つけに歩いて、泥酔している猪子さんを往来端で見つけ、炭屋の車に乗せて自分で曳いて帰った、というような話を、職場小屋の昼休みで聞くのは珍しくなかった。
「どうだい。勤まりそうかい。ベソを掻いちゃいけねえぜ。まアいいやな、六部に居りゃあ」
途々そう云ってくれたりした猪子さんであった。だが、職工長や技師にはよく突ッかかるというので、六部の組長中では、猪子さんがいちばん会社側のウケが悪いのだそうであった。
六組の班と班とは、自然その仕事を実績上に競わすような仕組みに出来ていた。で、ぼくといえ、いくら組長が庇ってくれても、それに甘えている事もできなかった。
だが、何にしても、ぼくは力がないし体躯も小さく、たとえばツチの巨材を鎖にかけて、前後四人で担ぐにしても、相手が腰を切ッても、ぼくには腰が切れない、又、よろけ勝ちになるなど、歯をくいしばッても一人前には出来ない事が多かった。