Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

人生中学通信簿

にあるいているような盛況時だった。

だが、何と小さな工房か。もちろん、下職や下絵描きの人々は、浅草下谷界隈に、何十軒とあったわけだが、おそらくT氏ほどなささやかな世帯はほかになかったろう。T氏は会津人の辛抱づよい性格と、男ながらたまかな生計に達していて、ぼくが住み込むと、台所の水仕事から、味噌醤油、八百屋物の買出しなど、一切はぼくの任にまかせられた。けれど、味噌二銭、塩鮭の切り身、一銭五厘のを二切れ、といったような買物のさしずも、T氏自身が小銭を数えて命じ、経済上の才覚はなかなかゆるがせな人ではない。思いきや、ぼくは二十歳になって、初めて人の台所で、米をとぐことを覚え、夢みていた苦学の灯下に書を読む代りに、御飯のむし加減のむずかしさを学ばなければならなかった。

人生中学通信簿

どうかすると、今でも、ぼくは人から「――絵もお上手なんでしょう」などと、からかい半分か知らないが、乞われたりすることがある。

とんでもない。ぼくが絵も描けるらしいなんて思われたその因を洗えば、赤面至極だ。前述したように、苦学目的で上京した当時、蒔絵師T氏の許で多少蒔絵を習ったり、図案を採るため、琳派や土佐画の模写に眼をただらした事があるので、何かの折、いたずら描きでもぬたくると、今でもその下地が意識なく出るのである。