Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

母に手紙を書いたり、読みたい物を読み耽った。朝になると、朝帰りの仲間が必ずぞろぞろ立ち寄る。ゆうべのもてたはなし、ふられたはなし、ワリ勘のやり取りなど、人にもこの家は気楽だったに違いない。職人なので長尻をする者はなく、T氏もそんな日のあとは馬力をかけて仕事に打込む。急ぎ仕事がたてこむと、徹夜続きもめずらしくない。仲間はT氏へ面と向って「女郎買いのヌカ味噌汁」と云ったり「そんなに、眼さ赤くただれるまで、金ばかし蓄め込みなすッて、どうする気かね」とからかったりするが、T氏の貯蓄心と吝嗇は徹していた。女郎買いを除いた以外では、憑かれた人のような面もあった。たとえば、婚礼の折詰でも提げて帰ると、その鯛一尾を、幾日間も茶だんすから出し入れして、焼き直しては一人で喰べ、あとの骨でも、味噌汁に入れろと、ぼくへ命じる、といった風であった。横浜ッ子の放漫な気質に馴れていたぼくには、初めは何とも奇異な人にみえたが、後にはその徹底ぶりに感服した。問屋先でも、T氏の吝嗇は有名だったが、しかし信用のできる堅人、期日を守る勤勉家としては、誰にもみとめられていた。

のべつ勤勉家とサシでいるので、ぼくも勤勉家でないわけにゆかない。