Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
当座、母はそれと明らさまに云わなかったが、いつか分った。母は、昼間の幾時間かを、廓内の一妓楼へ、お針さんに通い出していたのである。そこでは、内職以上な賃銀になるし、また妓たちから、手紙の代筆だの小さい用事を頼まれたりして、余分な収入も得られたらしい。そのせいで、父の冬着も小ざッぱりして来たし、二階住居ながら茶ダンスやら火鉢、茶卓の一つずつも殖えていた。けれどそれだけ母の骨身は削られていたのである。いや、後になって考えると、この折の母のお針さん勤めが、ついに、それから十年後の、母の死因をなしていたように思えてならない。何しろ、妓楼のお針仕事など、考えただけでも、不衛生で危険なことに極っている。しかも母には、その危険さをも不気味さをも顧みてなどいられなかったにちがいない。
どうやら、およそ二年後に、ぼくはT氏を離れて職を持つことが出来た。
初め、塗師屋のYさんを介しての約束では、一年限りの契約だったが、礼勤めすべきだというので、半年延びた。が、その半年を送ると又、Yさんから苦情が出た。T氏も快くは暇をくれない。その間、多少ごたごたも生じたが、仕事を出す先のO商会の番頭や同業の口ききも手伝って、ともかく暇をとった。