Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
そうだとすれば、この義兄は、じつに薄命な人だったというほかはない。やがてぼくを待っていた少青年期の世間的な苦労に似たような経歴も、この義兄の生まれながらの薄命に比すれば、たいした事はなかった。
家はまた引越した。山手通りの俗に桜並木とよばれる植木会社の表門通りから、遊行坂の降りへかかる坂の降り口で、座敷にいても庭越しに、横浜市街が一望に見えた。
こんどは千歳町の小学校へも、三分ノ一以上近くなった。
学校を嫌だと思ったことはない。校舎は木造二階建てで、ぼくらの組は下だった。二階の足踏みもオルガンの音も頭からつつ抜けで、蜂の巣そのままな私立小学校なのである。
校長先生は、山内茂三郎先生といい、九十一歳で、つい昨年亡くなられた。
晩年は、さすが病床に親しまれがちだったが、一昨々年、ぼくが菊池寛賞をもらい、その受賞祝賀会を友人たちが東京会館で開いてくれたとき、わざわざ横浜から来て下すった。――その折は、義兄政広の昔の恋人であった混血美人のオテイちゃんも一しょであったが――やがて先生が立って、よろこびの辞を述べられた時、その赤ら顔には老涙をうかべておられた。