Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
まことに、どこに有縁の人があるやら、この人生はわからない。
つい横道へそれたが、とにかく東京(明治三十年前後の)という大都会にちょっとでも触れたのは、母と一しょに佐倉へ行った途中の青山一泊が、ぼくには最初のものだった。
そして斎藤家を辞した翌朝である。忘れもしない、青山から本所の両国停車場までの長丁場を、ぼくと母とは人力車にゆられて行った。何度も途中で俥が止まり、ぼくは母から呼び起された。すぐ居眠ってしまうのだった。季節は晩春だったような気がする。途中、人形町で俥を休め、土産物を買ったり、梅園のお汁粉を食べたりした。
――佐倉のおじいさんは、ぼくら孫たちが、身のうちに持ちあっていた温かな愛像だった。その頃まだ、頗る健在で、郷里の町長をやめ、隠居身分でいたらしいが、昔ながらの高い生垣を繞らした屋敷の中に住んでいた。庭先からすぐ真下に印旛沼が一望に見えた。おじいさんは朝の膳にも酒を欠かした事がなく、銚子の浜から夜どおしで担いで来るという魚屋をつかまえては陽気な冗談をとばしていた。鰹の刺身を皮ツキに作らせ、にんにくオロシの醤油で食べるのが好きであった。