Japanische Klassiker mit Furigana
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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Lesen Sie 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) von 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 240.656 Zeichen · 478 Bildschirme
ほらよう。退いた! 退いた!」
走る。走る。――実に途方もなく大きな声で自慢しながら、威張って走るのです。だから、一緒に駕籠をつらねて走っている妹の菊路が、誂えてもなかなかこんなに上等なのはたやすく出来そうにもないわが兄と共々、めでたく江戸へ帰ることの出来たのが限りなくも悦ばしかったと見えて、しきりにはしゃぎながら言ったとても、さらに不思議のないことでした。
「な! 京弥さま、京弥さま。うれしゅうござりまするな。ほんとうにうれしゅうござりまするな」
なぞと先ずうしろの駕籠の京弥によろしく先へ言っておいて、前の駕籠の兄へあとから呼びかけました。
「な! 御兄様! ほら、ごろうじませ! ごろうじませ! 灯が見えまする。江戸の灯が見え出しました。さぞかしおなつかしゅうござりましょう?」
「………」
「な! お兄様!」
「………」
「江戸の灯でござります。久方ぶりでござりますもの、さぞかしおなつかしゅうござりましょう」
「………」
「お! お兄様!」
「………」
「お兄様と申しますのに! な! ――お兄様!」
ところが当の御兄様は、生きているのか死んでいるのか、音なき風の如く更に声がないのです。