Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

特に母の泣き顔の記憶はつよい。ポトポトと小鼻のわきをつたう涙の雫が、けいれんする唇の辺に来て、母の呟く恨み言と一しょに唇のうちへ解けてゆくのや、良人の横暴を怒りながら、それを云えないで、子供らに云って聞かせる母の、何ともいい難い青白い八の字眉など、部分的にも思い出すことができる。そしてこんな事は、当然、小さいぼくらの胸にも父への反抗になっていた。一も二もなく母親へ同情した。けれど母がよく悲嘆の余りに「おまえたちさえ産んでいなければ……」という口走りは、子のぼくらには、ひどく辛く聞えた。何だか、自分が産れたのが、母にすまないような、へんな味気なさを覚え、自分も母と一しょになっておいおい泣くほか、どうしようもない戸惑いにくるまれた。

父の酒狂ぶりと母の苦労を書けば限りもない。けれどその他の事も大体似たりよったりのものである。そして、結果においては父の酒癖がついに没落の因ともなり、晩年ずっと病床から起てない宿痾を作りつつあったのだが、しかしまた、いついつも乱暴や無理難題を酒癖としている父でもなかった。茶屋へゆけば豪放な遊び方をして、おもしろい人だといわれていたらしいし、家庭で酔っても、どうかすると大機嫌で、大勢の子供や女中を相手に一晩中キャッキャッといわせて無事に横たわってしまうこともある。