Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
と云って、みだらな声を笑いこぼした。母はたしかまだ乳呑みの末の一女を乳ぶさに抱いていたように思う。そして何とも返辞に困ったような迷惑顔をあからめて、自分の乳くびへ深くさし俯向いてしまったのであった。ぼくは何でそこにいたのか、とにかく、そばに坐っていたのである。もちろん客も母もぼくの居る居ないなどは問題としていなかったにちがいない。
もう一度は、ある日曜日だった。父の居間に午後から喋っている長っ尻な婦人客があった。富樫さんと覚えている。富樫さんの主人は、いわゆる浜の商館番頭なる者であった。海外の珍しい物など手土産にしてはよく夫婦して見えるわが家のお馴じみ客であったが、この日は若い夫人だけで、食卓にはお酒も出ていた。それを共にしながら、夫人はさかんに「お宅は羨ましいわ。私も子どもが欲しくて欲しくて、いろんな事をしてみたんですけれど」というような意味をぼくの父へ訴え出した。母も交じって居、父が何か冗談めいたことをいうと、母が「ばかな事ばかり仰ッしゃって」と、一しょに笑い興じていた。が、そのうちに、少々、浮わずったような調子で「いいえ、ほんとなの。ほんとに、うちではだめなんですの。