Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
貞は何か、捨てことばを投げて、奥へ逃げこんでしまった。
そんな事が根にあったせいだろうか、もとより子供心の腕白にすぎないわざだが、ぼくはこの貞をよくいじめた。女中いじめは母が最も注意していた所だが、一度などは、母も留守だったのであろうか、何か気にくわない事から怒り出して、ぼくは貞を追ッかけてゆき、廊下の隅へ追いつめて、持っていた本で貞の頭や横顔を夢中で撲った。貞は、壁を背にしてぺたんと下へ坐ってしまい、両手で顔を掩っていつまでも凝とうごかなかった。けれど、ぼくは貞が又、いつものソラ泣きしているものと思って、もう一ぺん力まかせに貞の髪の毛がこわれるほど本で打った。すると貞は途端に、きっと顔をふり上げて、ぼくの顔を睨みつけた。歯から血が滲んでいた。いつものソラ泣きではなかった。と思っただけでも、ぼくは何か自分の手がしびれたような気がしていたのに、貞はいかにも口惜しげな眼をじっとすえて「覚えてらっしゃい。今に今に、……坊っちゃんだっていつまで、お家に居られやしませんからね。そして、よそへ出て行けば、誰かにきっとこんな目にあわされるんだから」と、泣きじゃくり、泣きじゃくり、又ぼくを睨み直して何度も云った。