Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

ところが、父のこんな性情は、当時のまだ開港場気質を多分にもっていた海岸通りや仲通りの業界仲間では反対に「おもしろい人物だ」とか「豪快な人だ」とか、変に父を持ち上げる人々も少なくなかったらしく、父の鉄拳事件にしても、また訴訟にまで発展しても、そういう人々はさかんに父の尻押しもしたのであった。といって純粋に父を思ってくれる理解者や同情者だったわけではなく、高瀬氏に対する海運業者の反感やら、桟橋会社の乗っ取りを策すといった類の人々もあったのだが、そういう機微な人ごころなどを洞察できる父ではなかった。まともに訴訟へ取っ組んで、さしてありもしない私財を長い間つぎこんで、身も心も疲らしていたのであった。

家の一隅を暖簾にしていた“みどり屋雑貨店”も、その頃は、いつのまにか、店仕舞いしてしまっていた。どんなふうに閉店したのか、よく思い出せないが、開店のさい大売出しの手伝いに来た同じ問屋の松屋から、番頭小僧が大勢で残品引取りの荷車を曳いてきたことは覚えている。けれど、それからも、カン詰類だの香水だの、いろんな雑貨の売れ残りが、家庭の隅々に、ころがってい、家へ来る人へやったり、ぼくらが外へ持ち出したり、まるで邪魔物みたいにされていた。