Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
文芸家協会の会員カードを初め、よくいろんな問合せや申込書などに、略歴、本名、生年月日などの記入欄があるが、いったい、生れた月日などを、他人が何の便利につかうのだろう。ヘンな習慣である。自分自身にさえ、間違いのない生れ月や日を確かめる必要などは一生の間でもめったにありはしない。
だが、何だかここではそれが必要事みたいになって来たので、明記すると、ぼくのは“明治二十五年八月十三日生”が戸籍面である。
ほんとは、十一日生れだが、届け出が二日遅れたのだそうだ。どうでもいいようなものの、母の亡い今日、そんな事もまた聞いておいてよかったと思っている。自分だけにとっては、地球の実存以上、重大であった自分の誕生日が、あいまいもこであるよりは、やはりはっきり分っていた方が気もちがいい。
といっても単に生れたんだという漠とした観念のほか、もの心がつくまでの何年かは、誰でも例外なしの空白である。ただ脈搏だけをしている何キロかの肉塊にすぎない。多少、記憶めいた覚えも、父母か周囲の移植であり、もし人間が、完全なる自己の出現を、自己の官能で知りたいと希ったら、これは煩悶に値することである。