Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
あの頃の主婦は、洒落た紙入れなどという物は日常に使っていない。貨幣の通用度はあらかた銀貨銅貨ですんでいたからである。五厘(半銭)という小銅貨もまだあった。だから編物製の巾着などが重宝だったものとみえる。ぼくはその日頃から、朝夕に母が台所の濡れ手のまま帯の間から出し入れする編物の銭入れに、前とは違った気もちで眼を凝らすようになった。母が巾着の底からまさぐる銭の間に、白い銀貨の多く見えるときはほっとしたし、一銭二銭の銅貨しか見えないと、すぐ明日のお米だとか、家賃の事などが心配になった。そして、投書の郵便代だの雑誌や本を買ってくれなどという母へのねだり事も、以前のように甘えて云えなくなっていた。
母に云われたわけではない。ぼんやりと唯、こうしては居られない気が小さいぼくにもしてきたのである。「お父さん、いつ帰るの」或るとき、ぼくが恐々訊くと「もうじきお帰りになるけれど」と、母は口を濁した。その時も、父についてはそれ以上触れたがらない顔いろだった。ぼくは新聞を手にすると、自然、職業案内欄へ毎朝顔を沈めるようになっていた。そして見つけ出したのが、横浜南仲通りの南仲舎印刷所の「少年工ヲ求ム」