Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
ぼくは元来、信書は一切保存しない習慣だし、日記などもつけたことがない。旅行先へも手帳や写真機などは持って出たことがなく、どうかして気紛れに持って出ても、使って帰ったためしはない。
自分が不精者なので、ひとの克明な記憶には、一も二もなく感心する。徳川夢声氏の随想などには、事々に何年何月とはっきり出てくる。おそらく日記の功徳であろう。他日、予期しない資料ともなって、後世を益するかもしれない。
頼山陽の母梅女史の日記などは、山陽がお腹にやどる前から山陽の死後十数年にまで及んでいる。世界に例のない“母の日記”といえようか。現在のでは永井荷風氏の“断腸亭日乗”など文明批評や風俗史料としても多大な文化価値をふくんでいる。かりにもし荷風氏の作品と日記とを二分していずれを採るかといえば、ぼくはためらいなく日記を採る。
日記をつける風習はずいぶん古くからあったのであろう。ぼくの書いた新平家物語の参考書などにしても、肝腎かなめの所は、おおむね当時の公卿日記を参照とした。表面の史料よりも真に近い機微がうかがわれ、人間そのものにもじかに触れうるからである。
ところが往々その公卿日記にもどっちを取っていいかわからない各人各様な記述に遭遇したりする。