Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
それでも「はい」と云う返辞しか知らないような母は、勝手の小暗い隅にたたずんで、明日の米代としている小銭を悲しげに数えた。そして小銭と酒瓶とを持たせられて、ぼくは毎度、夜更けてからも使いに行った。晩秋の薄ら寒い風の中を、酒は手に抱いて帰りながら、焼芋屋のあたたかそうな煙は空しく横目に見て、そして家に帰れば、母は手内職の夜なべをしているし、ぼくも小さい弟妹たちも空き腹でいるのに、父ばかりが飽くなき独酌をつづけてい、しかも何か鬱々と不機嫌を内に溜めている姿を見ると、子供心にも、父の矛盾と非情に、堪らない不平を掻き立てられた。こうして父へのあきらかな反抗心を知ったのは、父が再び酒を飲み初めて、母の苦しみを加速度にして行った頃からのことであった。
売る物も質物も全く喰べ尽していた有様なので、当然、父が酒を飲み出してからは、母は冬へ向って着る物までも剥いでしまった。家賃、酒屋、米屋はいうまでもなく、近所の店屋には何軒も小さい借金が溜ってしまい、嘘のようだが、工場へ行くぼくの弁当箱に母が御飯を入れてくれる事の出来ない朝もあったりした。
そんなとき、もちろん母も朝飯は喰べていない。