Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
事実、父と争って、疾風のごとく外へ飛び出し、一晩中、母を痩せる思いにおいた事も一、二度ならずあった。それとぼくにはいつかしら少年らしい明るさが失われ、ややもすると独り物蔭へ行って泣き抜くような性情が強くなっていた。そして、それも父の癇に触ることが多かった。父はぼくを不良な生れ損いみたいによく面罵した。事実、ぼくは成長するに従って、父に少しでもよい面を見せようとはしなかった。故意に、父を憂えさせるような素振りや仕向け方ばかり見せた。
暮の近い十二月であった。母は思い余っての事だったろう。厚ぼったい手紙を書いて「英ちゃん、東京まで一人でお使いに行ける?」と、ぼくへ云った。
渋谷の松濤園が開放され、その頃そこの土木工事監督に、母の実弟山上三郎が勤めていた。「三郎叔父さんの所へ」と、母は父に内緒で云うのであった。汽車賃だけを握って、ぼくは東京へ行き、松濤園の工事作業事務所を訪ねた。
三郎叔父は以前、長いこと、ぼくの家に食客をしていたことがある。だから顔はよく知っていた。「暢気屋さん――」という綽名があり、始終ニコニコしている人柄のよい小肥りな青年技師だった。