Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
菜ッ葉服やツメ襟やマドロス然たる数千の職工たちが朝々会社の正門へ流れこむ足なみは壮観でさえあった。七時のブーは就業令なので六時半前後が人海の汐ざかりである。五分でも遅れると、守衛口で遅刻を取られ、支払い日の日勤票には、ちゃんと半時間の割でも日給から差引かれてある。
ドックの盛況か不況かは、横浜中の景気不景気にまですぐ反映した。会社の正門前に、ふつうの通勤工以外の自由労働者の大群が、毎朝まッ黒に見えるようなときは、一号二号三号ドックとも全部の竜骨台に入渠船が坐っていて、沖にも入渠待ちの内外船が混んでいる証拠だった。所謂、“ハマ景気”の活況時と見て間違いない。
その臨時雇用の黒い群れは、ハマではかんかん虫とよばれていた。上は腰の曲がったお婆あさんから幼は十四、五歳の少年少女までをふくめてい、かんかん虫には余り屈強な壮者はいなかったようである。何しろそれら異様な細民群の稼働が、波止場や桟橋や沖の船にまで雲の如くウヨウヨ充ちていた頃が、貿易港横浜としてはその最盛期であったといえよう。
かんかん虫という呼称は、ぼくには少しもユモラスには聞えない。反対に、エキゾチックではあるが何か灰色の哀感とそして弱々しい明治世代の訴える“うたごえ”も持たなかった細民たちの無数の顔が、華やかな港の灯を背景として、泛んでくる。