Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
彼らの仕事は、船のサビ落しと云われているが、ダンブル掃除や貯炭庫の闇や船底の水槽洗いや、およそ船鼠の出入りするような個所へは、どこへでも仕事に追い込まれた。塗りたてのペンキにまみれたり、鼻の穴から肺の中まで粉炭で黒くしたり、セメント箒とセメント缶を持って、船員でも知らないような最船底部の穴から穴へと這いこむのであった。
だから仕事も終って、黄昏れの陸へ上がって来る個々の彼らは、まっ黒と云っても判じ物と云っても当らない程、どれもこれも奇妙奇怪な顔して目鼻が分るだけである。だが工場裏の排水管の湯煙りにむらがって、その顔や手足を洗っている群れの中には、汚い頬被りが取られる下から、剥き卵みたいな可憐な少女の顔も見えたり、初々しげな人妻らしい、ほつれ髪の顔もあったりするのであった。もちろん大多数はそのまま百鬼夜行の行列になりそうな雑多な男共だが、それにしてもこの仲間には波止場ゴロだの凄い乱暴者は皆無といってよかった。なぜならかんかん虫クラスの日当は標準以下の安いものだからである。
が、この零細な老幼男女の雲集も、稼ぎとなると馬鹿にできない。夕方の露店や場末の灯をうるおすことは大変なものだった。