Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
遊蕩は階段の如きものか。金はなくても上りつめる。ぼくらは自分で引手茶屋遊びまで覚えた。ただぼくの取り得は、どんなに夜更けても、こっそり一人抜けて家に帰ることが常だった。
桐佐の女将には母にあたる年寄りから「あんたはまア、お若いのに、おめずらしい」と、養子にでも欲しいような顔して云われた事がある。何の、お堅いのでも何でもない。ぼくの母や病父や弟妹は、つい廓の塀一重の外に、まだ二階借りしていたのだ。それを考え出すと、花魁の寝顔と母の顔を見るのと、どっちがよいか、思い較べずにいられない。結局、夜半でも、つい一と足だから、そっちへ行ってしまうだけの事だった。
母は起き出して、茶を入れたり、戸外へ出て、甘い物を買って来たりする。吉原界隈に灯の絶える深夜はない。明け方近くまで話しこむ。そして母や弟妹たちの間にもぐり込んで寝る。父は遊んだ人なので、すでに、ぼくの持っていた遊蕩の匂いを知っていたであろう。
せっかく自立したのに、これでは、何の為かと、自嘲したくなった。といって、夕風がそよぐと、悪友が恋しくなる。手段として、ぼくは西町の二階を引き払い、一時、母たちと一しょになる事にきめた。