Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
六畳二間の一方を仕事場とし、少し辛抱して、そのうちどこか、一軒建ちのよい所へ移ろうという方針である。
ぼくの収入がやや確定してきたので、母も廓のお針さん通いを止め、父も体のよい日は、横丁の隠居みたいに、近所の碁会所へ出かけたりして、この所まあまあ、家計は小康を得たようなものだった。
ぼくの上京以来、四たび目かの正月もそこで迎えた。だから自分の年齢で二十三の一月十五日だった。
妙にこの事に限って、日まで明白に覚えているのは、生涯の悔いを、ぼくはその日、父へのこしてしまったのである。年々一月十五日になると、ぼくは自分を責めるが、それをここでも父へ詫びておこうと思う。
ぼくは漆筆を持って、一方の六畳で例の絵筆をもって仕事していた。冬なので、間の襖は閉めてあった。ところが、隣りの部屋で、何が、父の機嫌を損じたものか、初めの方は、聞き洩らしていたが、さかんに父が母へ怒りぬいているのである。
めずらしいことではない。しかし、この日のは、ちょっと、どぎつかった。それに、一時間たっても二時間たってもすまないのだ。母はとうに泣きじゃくッている。また父の病を悪化させてはと、その為に、謝っているとしか思えない。