Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

アブ公は子供のくせに口のまわりに黒っぽいヒゲが生えていた。眉と眼がくッ附いているような顔だった。よく腰巻一つで波止場を裸足で歩いているアラビア人と似ていた。やはり混血だったのだろうが、どんな家庭の、どんな職業の人の子だったかは、覚えていない。

とにかく、アブ公に、秘密を打明けたのは確かである。すると彼は、ぼくの着物の裾をめくり上げて、裾の縫目を歯で噛み切った。そして角にギザギザのある二十銭銀貨を手品のように揉み出した。彼はそれを握ったまま、ぼくの手には渡さなかった。ぼくも又、自分で持つ勇気はなかった。アブ公は突然、こう叫んだ。

「伊勢佐木町へ行こうや、伊勢佐木町へ連れてッてやる」

ぼくは唯々として彼について歩いた。

しかとした記憶は今、思い出しきれないが、その頃の二十銭を消費することが、二人の児童の買食いでは、いかに骨が折れた事かは、腹にこたえて覚えている。

まず汁粉屋へ入った。およそハガキ大の餅が入っていて、たしか一銭か一銭五厘だった。南京豆やアンパンをふところに、賑座の立見を見た。出てからまた、犬コロのように買食いして歩いた。しかし二十銭はどうしても費い切れなかったものとみえる。