Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
戸数も何軒と数えられるようなその真四角な住宅地の周りを、西北の戸部山や久保山から流れてくるきれいな小川が繞っていて、どの家の門にも、その家だけの小さな橋が架かっていた。
ぼくの家は、赤門とよぶ寺の山門通りに面した角地であった。だから家の横にも前にも、その清冽な水が繞っていた。この辺には、異人館も皆無だったし、混血児の友だちもいないし、以前の山手環境とは、まったく空気がちがっていた。山本安英さんの生家もこの清水町だった。
家の前は広い三叉路で、北へいくと、鉄温泉とよぶ鉱泉宿があった。南には、すぐ南太田小学校の校舎が望まれ、普門院というお寺やら、英町、霞町などという静かな町並の生垣がつづき、もすこし行くと初音町に出る。そこまで出ると、かなり賑やかで、角に大きな乾物問屋があった。そこの息子が、その頃漸く擡頭し出した壮士芝居というものの役者になって、森三之助という花形役者だということを、誰からともなく聞かされていた。
それと、もひとりその頃の著名人として伊藤痴遊の家が、ぼくの家から広い三叉路をへだてた向い側にあった。ぼくらが兵隊山とよんでいた山の崖をうしろにして見越しの松に船板塀といった構えの住居であった。