Japanische Klassiker mit Furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme
」と笑い声でいった。
子は縁側へ走り凭(よ)って戸袋(とぶくろ)からのり出した。すると男の背上で両足をかかえられている母が隣家の庭の真中でひょろひょろしているのを見た。子は男が憎くてならなかった。そして母が非常に悪いことをしているような気がした。
「丁度好えぞ、兼さん。」
赤い顔をした隣家の主人がそういって笑うと、傍の主婦は脱けた前歯を手で隠すようにして淡笑(うすわら)いをした。
子は室(へや)へは入って障子の片端を胸に押しつけると、指を舐(な)めてぷすぷすと幾つも障子に穴をあけた。もう眠たくなかった。
暫くして子は戸袋の処からまた隣家の庭をソッと覗(のぞ)いた。母が兼の横に坐って銚子(ちょうし)を捧(ささ)げるようにしているのが見えた。子はもう母が自分の方を向くだろうと思ってその方を長らく見ていた。母は銚子を持ったまま何か話している主人の顔を見続けていた。そして時々顎(あご)を動かした。しかし何時(いつ)までたっても子の方を向かなかった。
子は悲しくなった。で、顔を戸袋からひっこめて「お母さん。」と呼んだ。
「はいはい。」
そう母はいった。ほど経(へ)て母が何かいって帰ってくるらしいけはいがしたので子は火鉢(ひばち)の傍へ走り込んだ。