Japanische Klassiker mit Furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme
十
この日から、彼は、彼の妻を苦しめているものは事実果してこの漁場の魚か花園の花々か、そのどちらであろうかと迷い出した。何故なら彼女が花園にある限り、彼女の苦しい日々は、恐らく魚の吐き出す煙があるよりも、長く続いて行くにちがいなかったからである。
その夜の回診のとき、彼の妻は自分の足を眺めながら医師に訊ねた。
「先生、私の足、こんなに膨れて来て、どうしたんでございましょう。」
「いや、それは何んでもありません。御心配なさいますな。何んでもありませんから。」と医師は誤魔化した。
――水が足に廻り出したのだ。
――もう、駄目だ。と彼は思った。
医師が去ると、彼は電燈を消して燭台に火を点けた。
――さて、何の話をしたものであろう。
彼は妻の影が、ヘリオトロオプの花の上で、蝋燭の光りのままに細かく揺れているのを眺めていた。すると、ふと、彼は初めて妻を見たときの、あの彼女のただ彼のみに赦されてあるかのような健かな笑顔を思い出した。彼は涙がにじんで来た。彼はソッと妻の上にかがみ込むと、花の匂いの中で彼女の額に接吻した。
「お前は、俺があの汚い二階の紙屑の中に坐っている頃、毎夜こっそり来てくれたろう。