Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

あとで考えると、この日の父の姿ほど、なつかしいものはなく、どこかにそうした放逸な風もあった人だったかと、ぼくがその当時、まだ父と一しょに酒が飲めない年頃だったのが惜しまれる。

めったには、子供など連れて出ない父だが、もう一ぺんこんな事があった。夏の夕方である。めずらしく上布か何かの和服すがたで、父が「英。散歩に行こう」とぼくを連れ出した。伊勢佐木町の通りを、涼み姿の人影に交じって少しあるいた。父は書店の前に立ち「何か買え」というので、ぼくは“少年世界”と、その頃、時事新報社から創刊された“少年”の二冊をえらんだ。

すると父は、鉄ノ橋を渡って、関内の或る待合の門まで来ると「家へ帰っていい」と、ぼくを放し、そして「お父さんは途中で会社の友だちに会って、一しょにほかへ行ったと云えばいいんだよ。よけいな事を云わなくてもいいんだぞ」と念を押された。

けれどぼくは帰ると、有りの儘を正直に母へ話したものとみえる。そんな事はもう忘れていた頃、父は晩酌の膳に向いながら、いきなりぼくへ「貴さまのような奴は大ッ嫌いだ」と、烈しい口調で云った。「一たん男が云うなと云われた事は、口が裂けても云うもんじゃない。