Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
それからもよく父は「何だ、惚れた女にすら見捨てられるような男が」と義兄を痛罵したりして、その都度、義兄の顔がさっと青白んだり、母が自分の傷みでもあるかのように眉をひそめる場合などをまま見たが、しかし、それとて父子の間のことでしかなく、いつか義兄も元の独身に馴れ、ぼくらの瞳の嫂も、一時の影絵みたいに、生活の中から忘れ去っていた。
こうして義兄の結婚は一場の悪夢に似ていた。しかし二人の仲は、元々恋愛とまでいえる程な相思の愛ではなかったのだろう。案外、その後も義兄の容子に未練もみえないし、以後、お八重の方からも、子どもが産まれたでもなし、よそで義兄と会っているふうもないので、女ごころをめぐらしては、蔭でキヤキヤ苦労していたぼくの母などは、何か独り相撲でも取っていたような思いであったのだろう。後ではかえって何かぽかんとしてしまった容子だった。
「ほんとは、兄さんもまだ子供なのね。おまえと、おなじようなんだけれど、他人の手に育ってきたから、どこか大人びているのよ。お父さんのお談義でも、もっと子供っぽくしていればよいのに、大人みたいに受けているから」
母は、自分も常に暴君の良人にこらえかねては、つい深刻な場面を、ぼくらへまま見せたりするくせに、ふと、義兄と父の仲について、そんな呟きをぼくにした事があった。