Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

――それなのに、大人たちが、えてして、子供の前で、不用意な過ちを冒しているのは、まったく、子供の内面成長をおろそかに見、かつて自分の幼い肉塊が、あの貪欲な摂取欲をもつ蠅取草のような生態のものであったことを、忘れるともなくいつか忘れているからにほかならない。――と、ぼくは思うのだが、しかし、そう考えるのはひとりぼくのみが例外に早熟だったせいであろうか。統計に依ったわけでもないから、一般的な確言はしにくい気もするのである。あるいは、子供の中に伸びつつあってしかも外に見せない子供の性のすがたは、それぞれ、もっと底深い個人差を意外なほど持っているものなのかどうなのか。

一見、他人からぼくが“良い子”に見えた第一の原因は、いつも身なりをきちんとしていたことであろう。父はひどく身なりのやかましい人だった。母にたいしては「おひきずり」という言葉を以て、たえず身だしなみを、うるさく云った。母は沢山な子持ちになってからも、早朝に起きて台所へいくと、引窓の明りの下で、すぐに掌に水白粉を溶いて手早く顔になすっていた。そして水櫛で髪をなでつけ、それからお勝手にかかるのが長い間の、――年老った後までの習慣だった。