Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
何でも、この騒ぎに、すぐ斜向いのカゴ虎の若い衆がやって来て、おばさんをなだめ、お手のものの人力車に二人を乗せ、母もついて、眼科へ連れて行ったらしい。話の結末は、どうついたか覚えていないが、とにかく、喧嘩はコリゴリしたのは忘れえない。
初めてやった腕力の争いが、これだったので、ぼくはそれから以後、喧嘩はした事がないのである。生来、短小な体だし、どんな相手にした所で敵わないことを自分で知っているからでもある。もっとも、ずっと後の壮年期になって、もう一つ例外な履歴の一つを持ってはいる。それは東京毎夕新聞の家庭部にいたときだった。急ぎの社用であり夕刻だった。春日町の停留場で乗り替えようとしたところが、待てど待てどスズなりで乗りきれない。ついに辛抱しきれなくて、さいごの電車にぶら下がった。すると、声を嗄らしていた車掌がもう電車が走り出しているのに、ぼくを覗いて降りろ降りろと頻りにいう。電車は疾走しているのだし、ほかの連中もぶら下がっていることなので、車掌の制止する職掌上の気もちも分るが、聞えない顔して横着をきめていた。すると車掌は、ぼくが掴まっていた右手へ向って、自分の手を伸ばして来、そして、ぼくの指の一本一本を丹念にモギ離した。