Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

当然、その物音には、ぼくら子供も、密かに眼をさました。そして深夜の奇異な大人たちの行動や灯影のうごきに、固唾をのみ、凝と、蒲団の中から薄目をあいて見ていたものだった。

――が、見ているだけで、それが家庭の何の兆候かすら、ぼくには判断できなかった。おなじ事は、幾たびかあった。そして、深夜の訪客のある晩にかぎって、ぼくらの寝床は階下の部屋に置き更えられ、母も父も「早くおやすみ」と、ぼくらを片づけるように寝床へ追いたてた。

その頃から家運も父の会社の方も、没落への地スベリを急調にしていたのであろう。会社不況の原因は何といっても日露戦争の勃発であった。その宣戦布告は、ぼくが十三歳の明治三十七年二月十日のことであった。もちろん、海上不安やら経済混乱などの現象は、それ以前からで、居留地一帯の商館にも閉鎖するものがふえた。わけて外国船相手の横浜桟橋会社は、かんじんな桟橋に繋留船の急減をきたし、ひどい苦境に落ちてきたのである。

その上に、父と社長名義人の高瀬理三郎氏との間に、感情的な訴訟沙汰をひきおこし、地方裁判所では父の云い分が通ったが、控訴院では敗訴になり、さらに大審院にまで持ってゆくという意地と金ずくみたいな長期の係争を内輪で続けていたのだった。