Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
体もすっかりこわしていたらしく、また当然、精神的には大きな打撃だったにも違いない。――何しても、当分は、寝床の中に横たわったきりであった。急に渇いた口腹へ欲しい物を与えてもよくないとかで、朝夕の食事も粥をつづけ、まるで大病人みたいに、そっと、母の手の丹精だけに、いたわられている人であった。
しかし、社会から制裁をうけた敗北者の父でも、無職で半病人のような父であっても、父が家に在るということは、ぼくら子供の眼には、大きな力であり、光であった。その日からぼくらの小さい家は、櫓楫のない波間の小舟ではない気がした。
ぼくは依然、南仲舎の工場へ通いつづけ、夜帰ると父の枕元へ、畏まって「ただ今」の礼儀をした。よく眠っているのでなければ、父も必ず起き直って「お帰り」と、云ってくれた。また、どうかすると「毎日、くたびれるだろうなあ」と、いたわってくれたりした。こんな父を、子供のぼくは初めて知った。
からだの弱まったせいだろうか。父のこの頃は、いやに物優しく変って来ている。その代り以前のような豪放な冗談口も聞かれなかった。昏々と眠っているか、読書三昧かであった。枕元の書物には、易経と心理学に関する物が多かったように思う。