Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

別人のようになって、父も冗談を云い出したりして、いつも腹を抱えて笑わせる小母さんだった。

御主人の小島市太郎氏は、小母さんとは全然対蹠的な純官員さんであった。だから小母さんは、母とぼくからの頼みを聞くと「そんな事は、主人に相談してみても、世間知らずで、話し相手にはならないから、わたし一存で貸して上げるわ」と、翌日さっそく、郵便局から貯金を下げて貸してくれた。忘れ難い恩であった。そう強く感じたせいか、その日、小母さんが「さ、英ちゃん、しっかりやるんだよ、ベソなんか掻いているんじゃないの」と叱るように云って、ぼくら親子の前に十円紙幣を出してくれた時の、そのフシの高い手の指、その指の一つに嵌めていた肉彫りの金指環の菊模様までが、今でもぼくの眼の底に残っている。

母と一しょに、さっそく高島町へ出かけ、明日からの約束をして帰り、保証金の受取書は、小島の小母さんの手へ預けに行った。小母さんはその事のみならず、ぼくの身仕度まで心配し、家を一しょに出て、岩亀横町の露店を見て歩いた。そして編上げの古靴と学生服の古とを、ぼくの門出のために買ってくれた。

云い忘れたが年を越していたのである。